『モヌケノカラ』 30句
藤田哲史
浜に砂打ちあひ蟹の夜は泪
朝星に干すTシャツは皺のまま
ペットボトルに光屈折す夏の芝
ウォータースライダー短くありてさみしさよ
霧吹に足る鉢植のトマトかな
ロックの死鉢に夏葱育てられ
等閑のコーヒーに膜蓮育つ
飛行して雲に羽置く大暑かな
夏芝居瓶の媚薬のうつくしく
鳳仙花紙の如くにシャツ強し
荒々と鉄風鈴や文書けば
能登行の彼らよ麦茶忘れぬやう
沖既に晩夏の雨や憂かりけり
夏をはる砂のさみしさ浜に犬
既視感の藻の打ちあがり秋暑し
秋暑しナプキン巻かれカレーの匙
名月にくつろぐ鰐は詩書きつつ
ランナーズハイの冷たい風がある
ビニル傘ひらりと置ける月下なり
カップ麺に水筒の湯を冬の浜
葛の葉やワイパーのあと扇形
風となりわれを置き去る枯野かな
山枯れて給油所に飲む缶のもの
名盤の憂さも寒さの夕にて
雪つくれ鳥も魚も寝し夜は
鼠おづおづと月光氷りちくちくと
雪となりたし我をモヌケノカラにして
冬鴎どの忘却も快く
麝香得て十億年を寝釈迦かな
子規と虚子朧に話しゐたりけり
『初夢』 30句
生駒大祐
春まだき眠りの底に泥の立つ
誤つてゐる凍鶴を嵌めなほす
寄り添へば根深の外円が見ゆる
水仙とけふもたくさん喋つたね
湯豆腐を大浴場と思ふほど
蝋月来コーヒーミルの鈍き刃に
長長しき鳥の面を椿落つ
牡蠣殻に螺子回してふ鉄製の
逢引に蕪を提げて歩みけり
雪の日に部屋まで来てはごはんかな
焚火かな羽ばたきの音に目つむれば
寒鯉の朱にシヨコラとは垂れ易き
考へてゐないすなはち枯ばせう
とぶらひのうをのなまへのはなやかな
冬帽が一個入つたボール箱
男優は暖炉を押して去りにけり
山茶花は散り南方に雨季が来る
朝が来る黄色い雪のバケツかな
能まさに愉しきところ右は毛皮
かの蔵に室町ありぬ冬の鵙
白鳥の首の降り来し小言かな
炬燵猫に鯖の味噌煮をあげるとは
冬枯や文の半ばに人死せり
提灯のべたと寝ねある厚氷
切干ををかしなかほの食べてゐる
歩む熊傾いてきて丘である
女の子焼藷持つにハンカチーフ
氷柱伸ぶ丸太のやうな風吹いて
うはつらに水仙のある喫茶室
軒高くより水落つる初夢よ
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